優勝後の契約更改で押し問答に…金額を何度見せられてもしっかりした根拠はなかった
「要するにモノの価値というかね、その参考として数字ってものがあるんだよ。だから他球団の誰々が同じ勝利数だとか、そういう目線で言われると困るんだ。あくまでもチーム内のことなんだから」
プロ1年目からコンスタントに勝ってきた私の年俸を、どこかで抑えようという考えが球団にはあったように思う。
「ならば僕、一度、席を外します。トイレ休憩ってことに。なので、おふたりで、もう一度話をしてください」
私に聞かれたくない内輪話もあるだろうし、このままその場にいてもらちが明かない。そう思っていったん、交渉の場を離れた。
球団はイメージを大切にしていた。私が保留すれば、カネにシブいなどと言われかねないとの思いがあったのだろう。すぐにでも年俸を決めてしまおうという雰囲気を感じた。それもあって席を立ったものの、何度、電卓を見せられても、数字に対するしっかりした根拠はなかった。
近鉄の契約更改はそんな調子だったから、不満を持つ選手も、実際に保留した選手もいた。彼らの不満の根底にはその年のドラフト1位で入団してきた野茂英雄の存在もあった。むろん本人に責任があるわけではないのだが、近鉄はプロで一球も投げていない新人に史上最高額となる1億2000万円もの契約金を払った。それでいて9年ぶりにリーグ優勝した自分たちの契約更改はなぜ、こんなにシブいのか。ちょっと変わった投げ方をしているけど、実際、どれくらい投げるのよ──。選手からそんな声が上がったのは事実だった。(つづく)