物語人生論「心の力」が話題 姜尚中氏に聞く
「年間3万もの自死者が出る昨今、いまや人々は“弾の飛ばない戦争”の時代を生きています。就職先がなく雇用も安定しない若者、ブラック企業で働きづめになって年金制度も崩壊していく中高年など、未来に不安しか持てない状況下で、生き延びるために必要な『心の力』を養うヒントが、100年前の東西のふたつの物語の主人公の苦悩と生きざまの中にあると思います」
ふたつの物語の主人公は、どこにでもいる凡庸な人間で、輝くような才能も自信も持っていない。しかしどちらの物語でも、時代の風潮に呼応して強く生きていく友人たちが死を迎えるのに対して、彼らは凡庸ながらも淡々と生き延びていく。
「物語のふたりの主人公は『こうでなくてもあれがある』『あれがなくてもこれがある』と考え、そこで自分がよいと思う道を歩んでいきました。現代の若者たちのように、会社を首になったらおしまいだとか、学校をやめたら行き場がないとは考えなかった。そして人に意見は聞きつつも、周囲に『染まらず』『洗脳されない』という特徴もありました。昨今は『代替案がない』と自ら選択肢を狭めてしまう人が多いのですが、この2著には幻想でもいいから人生を単線ではなく複線化して、生き延びよというメッセージがあるのではないでしょうか」