「スコールの夜」芦崎笙著
■雇用機会均等法後の女性活用の現実に鋭く切り込んだ企業小説
吉沢環(たまき)は、メガバンクトップ、帝都銀行本店で初の女性管理職に抜擢された。東大法学部を卒業し、女性総合職1期生として入行してから20年。私生活を半ば犠牲にして手に入れたポストは総合企画部・関連事業室長。そこで環が任されたのは、赤字経営が続く子会社の解体という汚れ仕事だった。
頭取の理不尽な鶴の一声で決まった方針だが、矢面に立たされたのは環。保守的な男社会の中で、嫉妬や偏見に押しつぶされそうになりながら、環は戦う。
第5回日経小説大賞を受賞した話題作。爆発しそうな感情を抑え込んで組織人であろうとする女性管理職の内面がリアルに描かれる。だが、著者は男性で、現在、財務省大臣官房参事官を務める現役キャリア官僚。男女雇用機会均等法後の女性活用の現実に、小説という形で鋭く切り込んでいる。
主人公の環は、女性総合職のフロントランナーとして、懸命に道を切り開いてきた。後輩たちの憧れの存在でもある。しかし、環は悩む。これは自分の実力なのか。逆差別によって過大な人事評価を受けているのではないか、と。子会社解体という非情な仕事を乗り越えたとき、環の前にどんな道が開けるのだろうか。