「伊東正義」国正武重氏
1989年、リクルート事件で竹下登首相が退陣に追い込まれると、後継首相として伊東正義総務会長(当時)に白羽の矢が立った。しかし、伊東は「表紙だけ変えてもダメ」と拒絶する。総理の椅子を蹴ったのは後にも先にも、この人ぐらいだろう。その生きざまに迫ったのが本書だ。著者は伊東に最も信頼されていた元朝日新聞記者である。
「伊東さんは官房長官、外相を務め、ポスト竹下に推された政治家なのに、清貧の人でした。東京・世田谷の私邸は50坪ほどで、赤茶けたサビだらけのトタン屋根の家。会津若松の自宅事務所も同様です。閣僚時代も政治資金パーティーを一切開かず、金のかからない、かけない政治を貫いたのです」
だからこそ、リクルート事件のときに、自民党はこの人を表紙にして、ごまかそうとしたわけだが、説得に失敗し、その後、自民党は転落する。
「なぜ、自民単独政権は崩壊したのか。いみじくも伊東氏が拒否の理由にしたように、“表紙だけ変えてもダメ”なんですよ。自民党は政治とカネの問題で崩れたんです。ところが、今の自民党はそれをすっかり忘れている。徳洲会事件など金絡みのスキャンダルは後を絶たないし、政党助成金をもらいながら、政治資金パーティーに明け暮れている。今の政治家にこそ、伊東さんの生きざまを読んで欲しいと思います」