「あなたが消えた夜に」中村文則著
「死体が出た。……2人目だ」。係長からの電話で、悪夢から覚めた市高署の刑事・中島は現場に向かった。目撃証言によれば犯人は1人目と同じくグレーのコートを着た男。凶器は包丁。連続通り魔事件発生とあって、小さな町に警視庁捜査1課が乗り込み、特別捜査本部が設置された。
所轄の中島は、警視庁の美人刑事・小橋とコンビを組んで捜査にあたることになった。“コートの男”をめぐってマスコミの報道は過熱の一途。だが、事件は序の口に過ぎず、死体はなおも増え続けた。
相次ぐ殺人の犯人は“コートの男”なのか。模倣犯の仕業なのか。あるいは、模倣犯を装って自分の目的を遂げようとする殺人者が存在するのか。
事件は錯綜する。中島と小橋が足を棒にして探し当てた事件関係者や重要参考人は、みな心に闇を抱えている。刑事である中島自身、少年時代のつらい記憶にさいなまれ続けている。
警察ミステリーは徐々に心理ドラマの様相を呈し、登場人物の心の奥深くに分け入っていく。人はなぜ人を殺すのか。そんな人間をじっと見つめていながら、神はなぜ手をこまねいているのか。人は人を救えるのか。重たい問いが残るが、かすかな光も見える。