「革命戦士」と呼ばれた男の実像に迫る
著者はこんな覚悟を持って長州について書き、さらには長州に対する不快感をあらわにするキラー・カーンらにも取材を敢行している。妙なホラ話などは出てこず、プロレスビジネスのどんぶり勘定的なところや、何がきっかけでスターダムにのし上がるかといったところまで記述されており、当時のマット界をめぐる騒動がかなり整理されている。
最近の長州といえば、「滑舌が悪い」「なんだかバラエティーによく出てる気の良いおじさん」といった扱いではあるが、昭和世代からすると隔世の感があるのではないか。ゴールデンタイムにプロレスが民放で中継されていた時代、長州はアントニオ猪木に噛みつき、華のある藤波辰巳(現・辰爾)と名勝負を繰り広げ、「革命戦士」と呼ばれていた。
政治家が安易に「維新」を使う昨今、1980年代に「維新」を名乗った若き日の長州がどんな意図・衝動をもって周囲にケンカを売りまくったのか、そしてプロレス団体WJの大コケとそれ以降の穏やかな日々……。
ここに書いてあることが何のことだかチンプンカンプンの人は、恐らく本書を読んでも何が面白いか分からないだろう。意味が分かった方は、「噛ませ犬発言」「前田セメント事件」「コラコラ問答」「タイガーマスク誕生秘話」「長州・ミュンヘン五輪出場」などの裏事情を楽しんでいただきたい。(集英社インターナショナル 1900円+税)