なぜ、企業は労働者を酷使するのか
「日本を貧しくしないための経済学」上条勇著(ナカニシヤ出版)
とても質の高い日本経済論だ。恐怖をあおるでもなく、極論を展開するでもなく、日本経済に起きていることを淡々と解説していく。難しい経済理論は登場せず、数学もまったく使われない。出てくるのは、歴史的事実と丁寧な論理展開だ。だから経済学に詳しくない読者にも、本書は読みやすいはずだ。
しかも、著者が語っているのは、経済をどのように見たらよいのかという「物の見方」だから、やさしくても、深く理解できる。
もちろん、だからといって、著者に主張がないわけではない。むしろ、しっかりとしたスタンスを貫いている。それは、新自由主義が大部分の国民を幸せにはしないということだ。
著者は、「なぜ企業が利益を追求し続けるのか」を問うことは意味がないという。永遠に増殖し続けるお金の運動体が資本であり、その資本が中心となる社会が、資本主義社会だというのだ。
そうした定義を受け入れると、いまの世界や日本で起きていることがよく見えてくる。例えば、企業がなぜ労働者を奴隷のように酷使するのか。なぜ、不要になったら、無情に切り捨てるのか。それは、資本が自己増殖するためだ。自己増殖のためには、労働者は金儲けの道具に過ぎなくなっている。そして、増殖した資本は金融資本となって暴れまわり、バブルを引き起こしていく。著者の目には、アベノミクスによる株高も完全なバブルと映るのだ。