ヘイトスピーチの醜悪さと「事件簿」を網羅(選者・中川淳一郎)
「ヘイトスピーチ『愛国者』たちの憎悪と暴力」安田浩一著(文春新書 800円+税)
2013年の流行語大賞トップ10になった言葉「ヘイトスピーチ」の現状を報告する書だ。街頭で人種差別的発言を繰り返しデモを行う人々や、ネットでも同様の発言をする人々を著者は追う。ヘイトスピーチをする主体で有名なのは、在日特権を許さない市民の会(在特会)だ。同会の桜井誠前会長と、大阪市の橋下徹市長が「意見交換」という名の単なる罵倒を展開したことを覚えているかもしれない。
だが、「おまえな……!」(橋下)、「おまえって言うなよ!」(桜井)など、なんら議論にもならなかったため、一体なんのことだか分からなかったのが正直なところだろう。本書は、特に2013年から2014年にかけて吹き荒れたヘイトスピーチの実態と、その醜悪さをこれでもか、とばかりに描く。
ここではその具体的なヘイトスピーチの内容を転載することは避けよう。あまりにも激しく憎悪に満ちたものを転載することでさえうんざりするからだ。著者はそれらの発言も事細かに記している。「人種差別的」「ヘイトスピーチ」と書いたが、対象は主に韓国人と在日韓国人に向けられたものである。ネット上で「愛国者」を名乗り、日韓断交を訴え、韓国人がウンコを食べているなどとデマをまき散らかし、さらには在日のみが得る特権により、日本人が虐げられていると彼らは主張する。平日はネットで、土日は街頭でコリアンに対して罵詈雑言を浴びせ続けることをライフワークにする人がいるのである。