「手塚治虫が描いた戦後NIPPON(上・下)」手塚治虫著
昭和20年8月15日、医学生だった手塚治虫は、戦争が本当に終わったのか半信半疑だったが、それまで灯火管制で真っ暗だった大阪の街が明るく輝いて見えたときに、これで「好きなマンガが描ける」と戦争が終わったことを実感したという。
生涯に600余作、10万枚にも及ぶ「マンガの神様」の作品に通奏低音のように流れるのは「戦争を憎み平和を願う」思いだった。本書は、氏が遺した作品で戦後日本社会の歩みをたどったアンソロジー。
巻頭を飾る「1985への出発」の主人公は、戦争で親兄弟を失った戦争孤児の3人。終戦直後、12万人もの戦争孤児が町にあふれ、浮浪児狩りの名で集められ施設に送られていった。
そうした施設で出会った13歳のカズオと17歳のキミコ、6歳のテツは、脱走してカズオのアジトで暮らし始めるが、そこもすぐに占領軍によって追い出されてしまう。路頭に迷った3人は、占い師から40年後に3人は大金持ちになっていると予言される。疑う3人が占い師の言うまま路地に入り込むと、1985年の日本にタイムスリップ。1985年の日本の子供たちがオモチャの兵器で殺し合いごっこに夢中になっている姿に憤りを感じた3人は、抗議するために玩具会社に乗り込む……。(1985年発表)