「復刻アサヒグラフ 昭和二十年 日本の一番長い年」朝日新聞出版編
1923年創刊の「アサヒグラフ」は、終戦間際に旬刊となったものの、戦中から戦後の混乱期も休刊することなく続いた唯一の週刊グラフ誌。本書は、太平洋戦争が終結した1945年の一年間に発刊された同誌の中から重要な10冊を選んだ復刻版だ。
1940年に発足した第2次近衛文麿内閣による「出版新体制」によって、娯楽や趣味の雑誌は休刊・廃刊に追い込まれ、残った出版物は厳しい検閲のもとで「国策雑誌」化し、回覧用の捺印・署名欄まで設けられる。
1945年の正月号の冒頭は、天皇陛下の近影とともに動静を伝える。続いて、戦況の解説にはじまり、本土に来襲するB29を捕捉するための陸軍の制空監視陣の活躍や、陸軍の複座戦闘機「屠龍」、海軍の一式陸上攻撃機「銀河」、艦上攻撃機「彗星」など最新鋭機の雄姿の紹介。そして世界各地の戦地の前線と銃後の様子などが高揚した文章で報じられる。
最新鋭機投入のニュースの数ページ後には、大阪の御堂筋のビル街の歩道を開墾した農園の世話をする女性や、すっかり往時の面影をなくした東京の色街の写真など、戦時体制下の国内の点景も添えられており、その乖離が痛々しい。さらには「敵も苦しんでゐる」との見出しで、米軍の死傷者が50万人を超え、人的資源の枯渇や米国内でも生活物資の不足が起きていると伝える。