「襷を、君に。」蓮見恭子著
駅伝小説は数多い。三浦しをん著「風が強く吹いている」、桂望実著「Run! Run! Run!」、瀬尾まいこ著「あと少し、もう少し」、まはら三桃著「白をつなぐ」と、傑作が目白押しのジャンルだ。ここに割って入るのは大変である。しかし本書はなかなか健闘している。
高校駅伝小説だが、主人公の倉本歩は中学時代、さしたる記録を持たない選手であったとの設定である。ただ走ることが好きな女子だ。だから港ケ丘高校に入学したときも、陸上部に入ろうとするのは当然である。ところが、鬼のようなコーチは中学時代に誇れる記録を持たない歩の入部を認めない。つまりこのヒロインは、入部するところから戦わなければならないのだ。
幸運にも入部は認められるが、先輩たちにはもちろん勝てず、さらに同期よりも遅く、これでは試合に出場できない。いわば、その他大勢の二流ランナーである。
そういう落ちこぼれランナーの目から高校駅伝が描かれていくから、一流ランナーの見る風景とは異なるものが現出してくる。それは駅伝がチームプレーだということだ。一人の天才がいるだけではダメだということだ。襷をつなぐことの意味がこうして鮮やかに描かれるのである。
個性豊かな脇役たちの造形もよく、後半のスピーディーな展開もよく、気がつくと、走る彼女たちを応援しているのである。(光文社 1500円+税)