「ドローンランド」トム・ヒレンブラント著、赤坂桃子訳
アメリカと中国は没落し、ブラジル、アラブ、EUが新しいエネルギーをめぐって覇権を競っている近未来のヨーロッパを舞台にした長編だ。タイトルは、大小さまざまなドローンによって監視されている社会、ということから付けられている。
欧州議会議員の死体が発見され、ユーロポールの主任警部ベスターホイゼンが捜査に乗り出すところから始まっていく。帯に「ドイツ語圏の主要ミステリ賞・SF賞受賞」とあるように、SFでもあり、ミステリーでもあるので、どちらのジャンルの読者も楽しめる作品である。
シミュレーション空間「ミラースペース」を駆使すれば、犯行現場を再現することも可能というSF的設定をはじめとして、舞台設定や小道具の使い方が鮮やかだ。たとえば、この未来ではいつも雨が降っていて、沿岸部の都市は水没し、中国では将軍が地方で反乱を起こしていたりする。こういうディテールがさりげなく語られて、この物語を引き締めているのもいい。
なによりもいいのは読みやすいことだ。それは地味な捜査を描きながらもそのテンポがよく、さらに鮮烈なイメージが随所に現出するからだ。SFはどうも苦手という読者にこそすすめたい。ラスト近くのアクションの切れもよく、スリリングな展開に息をのむこと必至。もちろん物語の着地もよく、映画にしたいような面白小説だ。(河出書房新社 2800円+税)