アイデンティティーの危機に晒される男たち
日本のビジネスマンのストレスは、すでに“限界”にきている。終身雇用と年功序列が崩壊し、積み上げてきたキャリアが何の役にも立たない場面も珍しくはなくなっている。
そして今、“アイデンティティーの危機”に晒され、心の不調を訴える男たちが増えている。海原純子著「男はなぜこんなに苦しいのか」(朝日新聞出版 780円+税)では、心療内科医である著者の患者の事例も数多く取り上げながら、男たちが直面する心の危機をあぶり出していく。
山本誠一さん(仮名・50代)は部品メーカーの営業マン。近頃はインターネットの普及などで営業力が低下し、担当する部品を使用するハード自体の需要もなくなりつつあった。わずか1歳年上の担当取締役は、“ブレークスルーして活路を見いだせ”が口癖。しかし、ハード自体の販売が低下しているのだからどうしようもない。山本さんの心の中には、需要がない商品を担当させられている自分に対する怒りや、上司に対する怒りが蓄積し、適応障害による不眠に陥ってしまう。
近年では壮年期の適応障害が増えている。食品メーカーの営業を務める田口良雄さん(仮名・40代)もそのひとりだ。自社製品を愛し精力的に営業に取り組んできたものの、人件費削減に伴い評価制度が厳格化。5段階評価の下から2番目から一向に上がらない。寝る間を惜しんで収益を上げても、「成績はよくなったが仲間との連携が不十分」という評価。以降、田口さんには強い抑うつと倦怠感の症状が表れ、適応障害と診断された。
自尊感情が職場に依存する傾向が強い場合、ビジネス環境の変化が激しい現代ではストレスが過剰になり、適応障害に陥りやすい。自身の価値を他者の評価だけに求めないようにする必要があると著者。“誰にも分からない”という思い込みを捨て、家族や仲間に感情を吐露することも大切だという。
職場のメンタルヘルスを考える上でも役立ちそうだ。