「商い同心 千客万来事件帖」梶よう子著
北町奉行所同心の神人は、名主との宴席の帰り道、提灯の明かりに引き寄せられ、家で待つ妹の忘れ形見・多代への土産にいなりずし屋に立ち寄る。店の主人は顔のやけど痕を隠すためと、キツネの面をかぶっていた。
市中にあふれる品物の値の観察や、出版物を取り締まる諸色調掛の神人は、相場よりも安いいなりの値段に驚くが、薄利多売を狙う主人の話に納得する。翌日、味噌醤油問屋川津屋の主人から、隠居した父親が小間物屋から偽のべっ甲の櫛を10両の大金で買わされたと相談事が持ち込まれる。その矢先、別宅で暮らす川津屋の隠居が遺体で見つかる。
人情や思惑がからみあい、品物の値段から事件の謎を解く新感覚時代小説。(実業之日本社 620円+税)