「誰がために鐘を鳴らす」山本幸久著
青春小説である。しかも主人公は高校3年の錫之助。山本幸久の愛読者なら、おやっと思うだろう。「いつも仕事仲間がいた」という傑作コピーがいまも強い印象を残している「凸凹デイズ」(内容も傑作だ)を筆頭に、山本幸久の作品には働く人間を主人公にしたものが多い。そういう作者が高校生を描くとは珍しい。
高校3年になったばかりの錫之助が、ハンドベル部を作る顛末記だが、そのハンドベルとは、ピアノの鍵盤をばらばらにして、その1本1本をベルに置き換えたものであり、音符ひとつにつき、ハンドベル1本になるから複数の人間が心をひとつにして、演奏しなければならない。
錫之助をはじめ全員が素人だから、これから習得するのは大変だが、問題は錫之助の通う高校が、彼の卒業と同時に廃校が決定していること。つまり今から新たなことに取り組んでも、1年間の限定つきなのだ。どのみち1年すれば卒業だが、学校があれば卒業後に遊びに来ることが出来る。しかしそれも出来ないのだ。青春とはもともと期間限定の季節だが、つまり本書は二重に限定された物語なのである。
個性豊かな登場人物、巧みな挿話と鮮やかな構成。すべてが素晴らしい。読み始めるとやめられない面白さだ。山本幸久は軽妙な作風に定評のある作家だが、本書は「軽妙さ+感動」という傑作である。(KADOKAWA 1600円+税)