「総選挙ホテル」桂望実著
「お仕事小説」がはやっているのは、どんな仕事であっても当事者以外にその実態はわからないことが少なくないので、のぞき見趣味が満たされること、発見があること。さらに、大半の「お仕事小説」が最終的に元気を与えてくれること――そういう幾つかの理由がある。
ところがこの手の小説があまりに多いと、また「お仕事小説」かよ、と言いたくなってくる。だから桂望実の本書に対しても、どうせホテルの従業員がやる気を出すまでの話でしょ、と言う人がいるかもしれない。しかし、「県庁の星」や「嫌な女」の桂望実がそんなにストレートな話を書くわけがない。ちょっとひねっている。それが本書の読みどころだ。
業績不振の中堅ホテルに着任した新社長は従業員総選挙を言いだすのだ。ホテルには、さまざまな部署があって仕事が分担されているが、働く人すべてに立候補してもらって、たとえばAさんは本当に宴会部に必要な人なのか、それを従業員が決めるのである。部署によっては現在より人数が減るところがあり、つまりふさわしくないと他の従業員が判断して票が集まらなければクビ。他の部署のほうが適任となれば、そちらへ推薦もできるという選挙である。
荒療治がどんな効果を生むかは読んでのお楽しみ。相変わらず人間ドラマはたっぷりと読ませるので、この一風変わった「お仕事小説」をぜひ堪能されたい。(KADOKAWA 1500円+税)