「徳は孤ならず」木村元彦著
「日本サッカーの育将 今西和男」という副題のついたノンフィクションである。Jリーグに発展していく日本サッカー界の激動期に多くの人材を育てた今西和男の半生を描く書だが、読み始めるとやめられなくなる。
「育将」というのは、著者・木村元彦の造語で、「今西を描くために呼称するにはこの育む将という言葉が当てはまると考える」と木村は書いている。その門下生から驚くほど次々と名将が輩出されているのだ。今西は、「サッカー選手である前に良き社会人であれ」と言い続け、地元の広島にチームを立ち上げるために尽力し、サンフレッチェ広島発足時に、取締役強化部長兼総監督に就任。日本初のGMになった人だが、プロとして伸びずに広島を退団した選手を誰一人として路頭に迷わせなかったようだ。全国を回って頭を下げて就職を世話したという。
激動の時代を描く前半もたっぷりと読ませるが、FC岐阜のGMとなって奮闘する日々を描く本書の後半が、特に素晴らしい。今西は尽力しながらも放り出されるのだが、その裏側に潜むJリーグクラブライセンスマネジャーの嘘と横暴を告発する著者の冷静で熱い取材が白眉。ちなみに、「徳は孤ならず」とは、本当に徳のある高潔な人物は、決して孤立したままでいることはない、必ず理解してくれる隣人たちが集まってくるという意味である。サッカーを愛する人だけでなく、多くの人に読んでもらいたい書だ。
(集英社 1800円+税)