「ロープウェイ探訪」松本晋一著
しばしの空中散歩を楽しみながら絶景を味わう観光地のロープウェイ。日本での歴史は戦前に始まるが、各地に本格的に普及したのは、国民がレジャーを楽しむようになった昭和30年代に入ってからだ。その当時、開業したロープウェイは、半世紀を経て、搬器(乗客を乗せる車体)の交換や設備全体のリニューアルが次々と進んでいる。ロープウェイも鉄道の車両と同じようにモデルチェンジがあり、昭和の面影が消えつつあるという。
本書は、そうした失われつつある昭和のロープウェイの魅力を教えてくれるビジュアル・ガイドブック。
現存する日本最古のロープウェイは、昭和4年に開業した「吉野ロープウェイ」(奈良県)。桜の名所である吉野山に架設されたロープウェイは、シーズンには多くの観光客でにぎわうが、普段は住人たちの交通手段として使われている。戦前に開業したロープウェイのほとんどが、戦時中に廃業を余儀なくされたが、吉野ロープウェイは住民の交通手段だったために廃止を免れたのだという。吉野ロープウェイの搬器は、これまで3度交換(現在は昭和41年製)されているが、埼玉の「宝登山ロープウェイ」の搬器は、昭和36年の開業以来、一度も変わっていない現役最古参。
丸みを帯びたデザインは、今となっては何ともレトロな味わいだが、新幹線「こだま」にも似た当時の「未来感」が伝わってくる。それもそのはず、搬器を製作したのは、新幹線の車両をつくっているメーカーだそうだ。
また、同ロープウェイの山麓・山頂駅のどちらの駅舎も改築されることなく開業当時の昭和モダンの雰囲気を伝える。
その他、山陽鉄道の駅の線路をまたぐようにロープウェイの駅が設置されている「須磨浦ロープウェイ」(兵庫県)、戦前に開業(昭和8年)して戦時中に撤去された中で、唯一復活できた栃木県第二いろは坂の「明智平ロープウェイ」など、昭和が体感できる24路線を紹介。
さらに、国内最大166人乗りの搬器が空中を行き交う「竜王ロープウェイVESSEL」(長野県)や、より多くの乗客が窓際で眺望を楽しむことができる2階建て搬器の「新穂高ロープウェイ」(岐阜県)、自然景観を守るため支柱が一本もないワンスパン式で1710メートルのワイヤで支える「立山ロープウェイ」(富山県)など、最新鋭も含めた現役のロープウェイ全145路線を網羅する。
廃業して今はもうないロープウェイの写真や絵ハガキ、旅の思い出にもなるチケット、さらにロープウェイのおもちゃなどの資料も満載。
ロープウェイに乗るのを目的にした小さな旅も面白そうだ。(グラフィック社 1700円+税)