「東京湾諸島」加藤庸二著
日本には全部で6800もの島があり、そのうち430島に人が暮らしているという。離島に魅せられ、日本中の島という島を巡り、430島すべてを行き尽くした著者は、ある日、小笠原諸島からの帰途、船上から東京湾の入り口に浮かぶ小さな島影を見つける。
調べてみると、それは外国の軍隊から国土を守るために明治から大正にかけて造られた「海堡」だと分かる。埋め立て造成されたこうした人工島は、日本の島としては公式には認められていないが、著者はこれらも紛れもなく島だと感じられたという。本書は、東京湾を囲む千葉、東京、神奈川の1都2県の湾岸部に70余ある人工島を訪ね歩いたビジュアルルポ。
ある年代の人にとって、東京湾の人工島といえば「夢の島」が思い浮かぶのではなかろうか。現在は緑豊かな公園に整備された夢の島こと「東京湾埋立14号地その1」は、高度成長期にゴミの島として大きな社会問題となった場所である。
多くの人が誤解をしていると思われるが、実は夢の島は、そのすべてがゴミでできているわけではない。昭和初期、巨大化する船舶を航行させるため、水深の浅い東京湾の海底の土砂の浚渫が行われた。
その土砂を使って造られたのが「埋立14号地その1」で、当初はそこに飛行場の建設が計画されていたが、戦争で計画が頓挫。戦後、海抜1~3メートルの中途半端な埋め立て地は、「夢の島海水浴場」の名で人気を博したがわずか3年で閉鎖。その名が現在まで残ったのだそうだ。
一方、佃煮で有名な佃島は、天正18(1590)年、徳川家康の江戸入府に同行した摂津国佃村の漁民33人が居留地として与えられた隅田川の河口部の州を埋め立てて、自分たちの故郷の名を冠したのが始まり。佃島はその後、明治25年に月島という新しい人工島と一体化し、今では地名に「佃」の文字が残っているだけだ。
その他、東京湾の汚染からの復活の原動力となった水再生センターがある昭和島など、全75島を巡り、その歴史や島にまつわるエピソード、そして現在の姿を伝える。
後に京浜工業地帯となる鶴見-川崎間の150万坪の埋め立て地を民間で完成させた実業家・浅野総一郎とパトロン・安田善次郎の仕事を超えた交流など、人工島の歴史に潜む人間ドラマなども活写。
刻々と表情を変える東京湾の「今」を伝える力作。(駒草出版 1800円+税)