「情人」花房観音著
1995年1月17日。神戸の公立高校に通う高校3年生の笑子は、尋常ではない地鳴りの音で目を覚ました。大きな揺れに襲われ、まだ暗い早朝、声を出し合って父や兄と無事を確認し合う。ところが京都に里帰りしていたはずの母親が、けがをした姿で男に背負われて現れる。その男は、叔父の再婚相手の連れ子の絵島兵吾。再婚後すぐに母をなくし、叔父も再々婚して居場所を失ったため、笑子の家では同情していたのだが、その兵吾が母の不倫相手だったのだ。
ショックを受けた笑子は、大学進学を理由に京都でひとり暮らしを始める。年下の親戚の男に執着する母親と、そんな母親を、なにもなかったように受け入れる父親への疑問から、笑子は性の世界を探究し始めるのだが……。
どこか冷めた性体験しかない若い女性が、母親の不倫をきっかけに性に目覚めていくエロチック小説。体と心は別々なのか。愛とは、結婚とは、セックスとは何なのか。しなやかで、感性で描いている。(幻冬舎 1600円+税)