「移民の経済学」ベンジャミン・パウエル著、藪下史郎監訳 佐藤綾野ほか訳
「移民の流入を防ぐため、メキシコとの国境に巨大な壁を築く」と言ったドナルド・トランプの発言に見られるように、昨今、移民へのネガティブな意見が声高に語られることが増えてきた。しかし、移民が入ってくることで自分たちの仕事が奪われ、治安も経済も悪化するのだから移民は排斥すべきだというロジックは、果たして本当なのか。
本書は、移民問題に関するさまざまな専門家の学術研究をもとに米国の移民政策を考察した検証の書だ。
現在、出生国以外の場所で生活する人々は世界総人口の約3%だが、米国では約4000万の居住者が外国生まれで、その約3分の1が不法移民だ。本書では、移民制限が完全に撤廃されると世界経済に50兆~150兆ドルの利益がもたらされるという経済学者の試算や、移民増加に批判的な学者の政策的見解を双方の立場から紹介する。
不法移民に何をすべきか、国境開放化をどう考えるべきかについて、感情ではなく根拠をもとに議論する大切さを説いている。(東洋経済新報社 2800円+税)