「Paris en Vert パリ・オン・ヴェール 緑色のパリ」田中淳著
世界中から年間4000万人もの観光客が訪れる花の都パリ。そのシックで美しい街並みのあちらこちらで「緑色」が目に入る。道端で収集を待つごみ箱や街角のガラスビン回収ボックス、ごみ収集車に散水車、そして清掃・収集作業員のユニホームや彼ら彼女らが握るほうきに至るまで、この街の美観を支えるすべてが緑色で統一されているのだ。本書は、そんな緑色を追ってパリの街を歩くフォトエッセー。
かつて、パリでは街中に放置された犬のフンがひとつの名物にもなっていた。1990年代、著者が初めてパリを訪れてみると、耳にしていた悪評とは程遠い街の姿に安堵する。しかし、翌朝、散歩に出てみると噂通りの犬の落とし物があちらこちらで目に付き、散歩どころではなかったという。1時間ほどしてホテルに戻ると、周辺は元の美しい姿に戻っており、通りの先に「緑色」の働く人と車を見た氏は、彼らがこの街を支えていることを知る。
モンパルナスの路地で路肩に吹き寄せられたごみを丁寧にすくっては移動しながら作業を繰り返す清掃作業員のズィーコ氏、モンマルトルの丘の階段を一段一段掃き清めるローレンスさん、パレードが通り過ぎるまで待機して、ごみだらけのカルティエラタンの大通りをあっという間に蘇らせる清掃作業員と清掃車、日の出前のオペラ地区で手際よく作業を進める収集作業員など。
彼らの話を聞きながら、その働く姿をカメラに収める。
バティニョールの住宅街で顔なじみの住人たちから声を掛けられる、この仕事に就いて24年と13年というベテラン2人組や、収集時間に遅れて慌ててごみを運び込んできた住人たちに毅然と接する収集作業員など、誇りをもって仕事に取り組む彼らの心意気が伝わってくる。パリのすべてが仕事場という彼らを追った写真は、ガイドブックや写真集では見たことがないパリの素顔を切り取る。
作業員のユニホームが緑色なのは、路上にいることが多い彼らの安全を守るために目立つ色にしていると思われるが、ページを繰っているうちに、それがパリの街の絶妙なアクセントになっていることに気づく。
カメラは、タクシーのサインライトや、差し込む光に輝くモスクの床、市場の路上に落ちていたクリスマス用リースのヒイラギ、キックボードで走る青年が着ていたジャンパーなど、街中で見つけた「緑」も活写。
昨年11月の同時多発テロ後、戒厳令の中にあっても屈することなく黙々と「緑色」の人たちが街を清掃し、人々は日常を送っている。そんな普段着のパリの街を独特の視点で案内してくれる好著。(ころから 1600円+税)