「伝えることから始めよう」高田明著
「ジャパネットたかた」のテレビショッピングで、おすすめ商品を熱く語るあの社長の姿を見かけなくなった。2015年1月に社長を退任、その1年後、テレビショッピングからも引退し、会社の未来を次世代に託した。今年68歳。小さなカメラ店から出発し、年商1500億円を超える企業に育て上げた名物社長が、その半生と経営哲学を語っている。
1948年、長崎県平戸市生まれ。大阪経済大学卒業後、大手機械製作所に入社し、若くしてヨーロッパ駐在を経験。社長に目をかけられ、仕事も充実していたが、友人と翻訳会社を始めようと計画して退社。しかしうまくいかず、故郷平戸に戻って家業のカメラ店で働き始めた。温泉旅館や観光地で記念写真を撮影し、ツアー客に販売するビジネスを一家総出で展開した。家業から分離独立した時には、37歳になっていた。
目標も出世欲もない。「今を生きる」がモットー。流れのままに与えられた環境で全力を尽くした。
「毎日300%の力でやっている」という自負があった。90年からナショナルブランド製品のラジオショッピングを展開、94年にはテレビショッピングに挑戦し、事業を拡大、発展させていく。楽天家で、時に思い切った投資に踏み切る。自前のスタジオをつくり、生放送を行い、やがて東京進出。22年間、カメラの前で商品の魅力をしゃべり続けた。この人の「伝える力」は視聴者を動かし、売り上げは伸び続けた。
「できない理由を考えるのではなく、どうしたらできるか考える」「今を生きていれば課題が見えてくる」「失敗とは一生懸命にやらなかったこと」……。実績に裏付けられた言葉の数々には、全てのビジネスパーソンを元気にするパワーがある。
(東洋経済新報社 1600円+税)