「杉村太郎、愛とその死」杉村貴子著
「就活のバイブル」といわれるロングセラー「絶対内定」の著者。就職を支援するキャリアデザインスクール「我究館」の創設者。サラリーマンを歌ったコミックソングでヒットを飛ばしたデュオ「シャインズ」のメンバーとして記憶している人もいるだろう。
杉村太郎は人生を全力疾走し、2011年、47歳で亡くなった。原発不明がんという希少がんと診断され、7年にわたる闘病の末の無念の死だった。がん発覚の直前に書き上げた著書「アツイコトバ」の最後にはこうある。「死ぬ気でやれよ、死なないから」。人生を切り開こうとする若者たちと真剣に向き合った。
慶応大学卒業後、住友商事に入社。バブル期に歌手として活躍した後、起業。スポーツで鍛えた強靱な体を武器にがむしゃらに走り続けたのは、大きな夢があったからだ。夢とは「世界からひとりでも弱者を減らし、社会をより良い方向に導くこと」。目を世界に向け、大海を目指していた。
一念発起して英語を学び直し、01年から2年間、妻と幼い娘を連れてハーバード大学のケネディスクール(行政大学院)に留学。ここで学んだこと、世界各国の仲間たちとの絆は、彼の夢を後押しするはずだった。
しかし、帰国後に待っていたのはがんとの闘いだった。それでも杉村は前を向いた。手術を前に、新しいラグビーボールに「ガンになってよかった、と思える人生を送る。」と書いた。
この本の著者は、杉村太郎に伴走し、最期まで支え続けた妻。自分らしく生ききった夫への深い思いがにじむ。「太郎さんから受け取ったバトンを落とさないように全力で走るから見ていてほしい」と、妻は夫の仕事を引き継ぎ、1男1女を抱えて奮闘している。(河出書房新社 1600円+税)