「日本でいちばん美しい村」MdN編集部編
故郷や旅先で出合った景色など、誰にでも、心の奥深くにしまい、大切にしている、とっておきの風景があるのではなかろうか。
それらを思い出の中から取り出して愛でれば、心が安らぐ、宝物とも呼ぶべき風景。チェーン店などに占拠され、駅前やバイパス沿いの景色が全国どこに行っても均一化してしまった日本だが、今もそれは各地にひっそりと、でも確かに残されている。
本書は、四季折々の季節の中で神々しいまでに輝く、そんな美しい日本の風景を集めた写真集である。
まずは、日本人のDNAに刻まれた原風景ともいえる「美しい田畑の広がる風景」を紹介。
新潟県の旧高柳町(現柏崎市)の山奥、田を囲むようにかやぶき屋根の古民家が環状に立ち並ぶ小さな村「荻ノ島かやぶきの里」(写真①)は、「日本昔話」そのままの世界。その他、眼下に広がる幾何学模様の田んぼが黄金のじゅうたんのような、空から見た北海道の東川町、四国の西端で愛媛県の宇和島にある「遊子水荷浦」の平均40度もの急勾配に連なる、50段に及ぶ段畑から望む豊後水道の宇和海などの写真が郷愁を呼び起こす。
さらに平家の落人・平勝秀が落ち延びたという伝説が残る秘境中の秘境、長野県栄村の秋山郷、高さ200メートルの巨岩「屏風岩」と岩裾の木々が絶妙の景観をつくり出す奈良の奥座敷・曽爾村など、「山々に抱かれた集落の風景」が続く。
また、「水辺が麗しい郷村の風景」の章では、東洋のナイアガラと呼ばれる「原尻の滝」がある大分県の旧緒方町(現豊後大野市)や、水を張った田に独立峰の鳥海山が映り、島が浮いているように見える「九十九島の眺め」が楽しめる秋田県の旧仁賀保町(現にかほ市)、渡り鳥のタンチョウヅルが一年を通して生息する北海道の鶴居村などの風景が並ぶ。
他にも、戦国時代に宣教師ルイス・フロイスが「地上の天国」と称えた門前町、滋賀県の旧愛東町(現東近江市=写真②)などの「どこか懐かしい村里の風景」や、「花の溢れる人里の風景」「広大な海を望む村の風景」と、日本各地の知られざる、とっておきの風景をテーマごとに紹介する。
中には「馬籠宿」がある旧山口村(岐阜県中津川市)、五箇山の名で知られる「相倉合掌造り集落」がある富山県旧平村(現南砺市)など、観光地としても知られる場所もあるが、収録されている風景の多くは、訪れたことがある人はまだ少ないと思われる土地だ。
土地土地の解説や見どころ、アクセスなども添えられ、旅のガイドブック、写真愛好家の参考書としても楽しめる、日本を再発見できる写真集。(エムディエヌコーポレーション 1800円+税)