「魂でもいいから、そばにいて」奥野修司氏
死者、行方不明者1万8000人余りを出した東日本大震災から6年。その被災地で、死者を身近に感じる体験をした人たちがいる――。
本書は3年半以上、被災地に通い続けた著者に、遺族がぽつりぽつりと語った、不思議としか言いようのない16人の物語の記録である。
「震災の後、被災地ではドアを開けると大勢のズブ濡れの人が立っていたなんて類いの幽霊譚がいっぱいあったんですよ。あるとき、そんな話を宮城県在住の在宅緩和医療の岡部医師としていたら、『幽霊譚はお迎え現象と同じだ。きちんと聞き取りをしたほうがいいんだがなぁ』と言われまして。でも、僕は幽霊なんて信じないタチ。ずっと気が乗らなかったんですが、ある話を聞いて取材をしようと決心したんです」
それは石巻のあるおばあさんの話だった。近所の人から「あんたのおじいさんの霊が大街道の十字路で出たよ」と聞き、会いたさに毎晩、その十字路に立っていた。
切ない話だが聞いてホッとしたという著者は、震災2年後から、本格的に聞き取りに乗り出した。