「みすゞと雅輔」松本侑子著
2014年、詩人・金子みすゞの実弟、上山雅輔の約70年にわたる膨大な日記と回想録が発見された。
みすゞが20歳で雑誌に詩を投稿し始めてから26歳で自死を遂げるまでの時期も含まれ、本書は、その資料から明らかになった事実を基に、みすゞの語られることのなかった心情を描いた伝記小説である。
大正中期、北原白秋や西條八十らが提唱する童謡は、子どもの自由な心を表現する新しい芸術表現として国民的な人気を得ていた。みすゞも、白秋や八十らが主宰する雑誌に詩を投稿し、当選者の常連となる。幼いときに実母の姉夫婦の養子に出され、長ずるまでみすゞを従姉と思っていた雅輔にとって、みすゞは憧れであり、淡い恋心を抱く存在だった。
頻繁に手紙を交わし互いを励ましていたが、放蕩にかまけ結婚後のみすゞの苦悩を理解せずに彼女を死なせてしまったことは、雅輔を生涯苦しめることになる――。
実弟の目を通して、今や国民詩人となった金子みすゞの秘められた内面に迫った力作。(新潮社 2000円+税)