「最後のヴァイキング」スティーブン・R・バウン著 小林政子訳
世界的に有名な探検家アムンセンの生涯を描いた書である。南極点を目指したスコットとの競争は知られているが、他の本でそのディテールは読んだことがあるというのに、そのくだりはやっぱり迫力満点で、目が離せない。
アムンセンは、犬ぞりで南極点を目指したのだが、弱った犬を食べるくだりは鬼気迫るものがある。そんなにまでして、なぜ前に進むのかとつい思うのは、著者の描写がリアルだからだろう。酷寒の地を行く探検家の息遣いまでが聞こえてきそうだ。
生涯、借金に苦しんだこと。3人の人妻と恋したこと。最後は北極圏で行方不明になったこと――そういう波瀾万丈の生涯が活写されるので、どんどん引き込まれていく。晩年、イタリアの飛行船で北極点を目指したために、ファシスト党の成果を強調するムッソリーニと揉めるのだが、その因縁の相手であるイタリア人ノビレが遭難したときには救出に向かい、そこでアムンセンが行方不明になるというドラマチックな結果も、彼の悲劇性を高めている。
20世紀の初めは、地理上の空白地帯がまだ随所にあった時代であり、アムンセンはそういう時代に生きたノルウェーの探検家であった。不屈の闘志を秘めた男であり、同時に頑固で強情で、毀誉褒貶の激しい冒険家だった(新聞では「最後のヴァイキング」と書かれた)。意志の強そうなその顔が、表紙カバーからこちらを睨んでいる。(国書刊行会 3500円+税)