「明治ガールズ」藤井清美著
「富岡製糸場で青春を」と副題のついた長編である。さらに帯には「少女たちの青春お仕事奮闘記」とある。これで、だいたいの内容が推察できるが、その副題と帯コピー通りの小説といっていい。
そこまでわかっていればもう読む必要はない、と思う方もいるかもしれない。しかし内容がわかっていても面白い小説はある。それは、小説がストーリーではないからだ。小説の本質は文章にあるからだ。その真実を、この小説は教えてくれる。
たとえば、とーんとーん、ととん、という太鼓と鼓の音が響いてくる。足で拍子を取りながら、踊る人たちが近づいてくるのを待つ。これは豊作を願う松代の踊りだ。笠をかぶって踊る人たちの顔が提灯に照らされて陰影を作っている。生暖かい空気を切り裂いて、太鼓の音が響く。笛の音も聞こえてくる。踊りが終わると秋の空気が地面から立ち上ってくる。祭りは賑やかな夏と、静かな秋の境目だ。
何でもない場面だが、とてもいい場面だ。こういうシーンを読むのが小説を読む喜びの一つなのである。作者の藤井清美は著名な脚本家で本書は小説デビュー作ということだが、その才能に注目したい。
究極の初恋小説のように見えるけれど、決してそうではなく、新しい時代に生きるヒロインの決意と夢をみずみずしく描いていることもいい。(KADOKAWA 1400円+税)