「医者の9割はうつを治せない」千村晃氏
そのため医者の多くは、定型的治療に当てはめるだけだったり、精神科医のバイブルで診断マニュアル「DSM」に沿って薬を処方するだけという。
しかし、抗うつ剤は症状を緩和するだけで根本治療にはならず、同じ理由から長期休養を取得させても再発するなどの問題が起こっている。
こうした現実を医者が気づいていないことが多い、と著者は指摘する。
「うつの原因として、人間関係など目の前の問題を注視しがちですが、実は生い立ちや過去の環境などが影響していることが多々あるんですね。だから、もっとも適した治療法は、患者の話を聞き、原因となった問題を認識し、不安を取り除くことなんです。そうすれば、ほとんどのうつは治ります。でも、原因の根っこを探り当てるのは、やってみないと分からない。手間も時間もかかりますが診療費は一緒なので、あえて手を出さない医者もいるかもしれません」
高圧的な上司がきっかけでうつになった男性患者Aさん。ところが上司が代わっても改善しない。著者が何カ月もかけて対話を続けると、Aさんは子供の頃、父親によく怒鳴られた体験を思い出したことで、上司に対する恐怖感が徐々に薄れたという。また、子供の頃のきょうだい間の待遇差が尾を引いて自信がなかったHさん、倦怠感からうつ病と診断されていたものの、血液検査を促したところ甲状腺機能の低下が見つかったKさんなど、本書には意外な事例がつづられている。