「世界の地下鉄駅」水野久美/テキスト アフロ/写真
世界初の地下鉄は、1863年にロンドンで開業。155年が経った今、地下鉄は世界中の都市でなくてはならない存在になっている。
しかし、地下鉄には地下空間ゆえの「狭い、暗い、怖い」という圧迫感があり、都市によっては、一時期、犯罪の温床として汚名を馳せ、地元住民や観光客らの足が遠のいた時期もあった。そうしたイメージを払拭するため、多くの地下鉄でパブリックアートが取り入れられている。アートギャラリーさながらのそんな世界の魅力的な地下鉄駅を紹介するビジュアルガイドブックだ。
地下鉄アートの先駆けともいえるストックホルム(スウェーデン)では、1950年代の建設初期から「アートを身近なものに」という芸術家の活動で、90以上の駅がそれぞれ異なるテーマのダイナミックで奇抜なアートで彩られている。そのひとつ「ソルナ・セントラム駅」構内は、「地方の過疎化と環境破壊」をテーマに、むき出しの岩盤の天井部分に燃えるような赤い空、そして側面にはスプルースの木の森を描き、これらは当時の危機と葛藤を表現しているという。
フランス・パリの「アール・ゼ・メティエ駅」の11号線ホームは、「海底二万里」の潜水艦「ノーチラス号」をモチーフに全体が銅板で覆われ、壁には円窓が配され、天井では巨大な歯車が今にも動き出しそうだ。
一方、ドイツ・ミュンヘンの「ヴェストフリートホフ駅」では、天井から吊るされた直径3・8メートルもの巨大なランプシェードが放つ幻想的な光が豊かな色彩をつくり出す。照明デザインの巨匠インゴ・マウラーによるインスタレーション作品だそうだ。
世界最古の地下鉄駅のひとつ、イギリス・ロンドンの「ベーカー・ストリート駅」(写真①)は、あのシャーロック・ホームズの探偵事務所があるとされるベーカー街の最寄り駅。ゆえに駅の構内もホームズだらけだ。
こんな地下鉄なら、通勤時間もさぞかし楽しいに違いない。
ロシアのモスクワの地下鉄駅は、「コムソモーリスカヤ駅」(写真②)のようにシャンデリアや黄金のレリーフ、大理石の柱など地下宮殿さながらの豪華絢爛な駅があるかと思えば、2年前に開業した「ルミャンツェヴォ駅」のように、壁面がモンドリアン流の「コンポジションアート」で埋め尽くされたおしゃれな駅まである。
アジアだって負けてはいない。
北京オリンピックに合わせて開業した中国の「北土城駅」は、柱や壁などが中国文化を象徴する青と白の青花磁器をモチーフに独自の空間をつくり出す。
何かと話題の北朝鮮・平壌の「復興駅」(写真③)も登場。ここは実はアメリカの旅行サイトで「世界で最も美しい地下鉄15選」にも選ばれているのだとか。
同国では地下鉄は核シェルターの役割を持ち、ホームは地下110メートルと世界最深。そのホームは、社会主義を象徴する壁画やシャンデリアで装飾されている。
ヨーロッパ、南北アメリカ、そしてアジアの3地域から選りすぐりの36駅を網羅。次に海外旅行に出かける際は、ぜひ、現地の地下鉄にも乗ってみよう。
(青幻舎 1600円+税)