「レンズが撮らえた幕末維新の日本」高橋則英監修
今年は明治元年(1868年)から150年。写真が日本に導入されたのは明治元年から遡ること20年の嘉永元年(1848年)ごろで、明治になるころには現代により近い写真が登場していたという。本書は、そんな当時の古写真で幕末・明治の日本と日本人の姿を紹介する写真集。
まず目を見張るのは、冒頭の特集で紹介される「手彩色写真」だ。もちろん当時はモノクロ写真の技術しかなかったが、よりリアルな表現を求めて、手作業によって絵の具を用いて着色したのが手彩色写真だ。
当時は一般的に行われていた技術だそうで、絵付師らが写真に彩色する写真館での作業風景を写した写真も残っているのだが、驚かされるのはその出来栄え。甲冑姿の3人の男たちを写した写真など、そのピントが定まったクリアな映像と今も鮮やかさを失わない色彩で、現代のカラー写真と見違えてしまうほどだ。
戦災で焼失してしまった芝・増上寺の第2代将軍・徳川秀忠の霊廟に建てられた宝塔も、写真でその在りし日の姿が残る。
ほかにも、明治5年に竣工した擬洋式建築の代表作である東京・兜町の「第一国立銀行」や、日本初の電動式エレベーターを備えた12階建ての塔「凌雲閣」(浅草)、京都の祇園四条通り、大阪の北の新地など、見たこともない風景や現在の姿からは想像もできない、かつての風景が、まるでつい最近撮影したかのように写し出されており、タイムトラベルしたような不思議な気分にさせられる。
特集に続くのは、当時の庶民たちの暮らしぶりを伝える写真だ。
髷を結った男性が女性に給仕されながら箱膳で食事をする様子や、井戸で水くみをする女性たち、大八車にあふれるばかりの竹製の日用雑貨を積んで売り歩く「籠売り」、奇妙な扮装をして三味線を弾いたり歌を歌ったりしながら行商する「飴売り」、そろばんを片手にした眼鏡をかけた商人、そして相撲巡業のスナップなど。当時の風俗を伝えるこうした一枚の写真が、時に一冊の書物よりも雄弁に多くのことを伝えることを実感する。
中には火消しや、縄で縛られた罪人と岡っ引きなど、江戸の名残を感じさせる写真もある。
そのほか、シーボルトと日本女性の間に生まれ、日本で初めての女医(産科医)となった楠本いねや、大久保利通や勝海舟ら日本の歴史にその名を残す人々のポートレートなども多数収録。
「長崎三女傑」の一人で坂本龍馬らが結成した亀山社中に援助を続けた大浦慶の波乱の人生など、一枚の写真に込められたドラマを紹介するコーナーもあり、読み物としても楽しめる。
明治5年9月12日、鉄道開業式当日の横浜駅での式典の様子や、戊辰戦争で官軍の砲撃によって激しく損傷した会津若松城など、報道写真的なものも数多く残っている。
はるか遠くのことだった幕末明治が身近に感じられる一冊で、この時代を舞台にしたドラマや小説の副読本にも最適だ。
(山川出版社 1600円+税)