「ストリップの帝王」八木澤高明著
かつてストリップ界の帝王と呼ばれていた男がいる。瀧口義弘。1941年、福岡生まれ。福岡相互銀行(現・西日本シティ銀行)でサラリーマン生活を送っていた彼の人生は、34歳のとき、大きく変転する。ある日、木更津でストリップ劇場を経営する姉が、銀行に電話をかけてきて、自分の仕事を手伝えと言う。瀧口はその日のうちに辞表を書いて銀行を辞め、ストリップ業界に身を投じた。
瀧口の姉は、レズビアンショーで名を馳せたストリッパー・桐かおる。公然わいせつ罪で何度も投獄された一条さゆりとともに、人気を二分していた。
銀行員はアウトサイダーに転じた。ストリップ業界はやくざとの関わりが深く、警察の取り締まりとの暗闘も日常茶飯。劇場が摘発されたとき、なんと瀧口は、腹にダイナマイトを巻いて千葉県警に乗り込んだという。業界の水が合っていたのか、次第にプロモーターとして手腕を発揮。潰れかけた劇場をいくつも再建し、業界に君臨するまでになる。
瀧口の異色の一代記をまとめた著者は、世界各国の色街や娼婦の取材を続けてきたジャーナリスト。彼の目に映った瀧口は、帝王のイメージとはほど遠い細面で、えらぶったところがない。踊り子たちに礼儀作法の大切さを説き、物事にきちんと筋を通す人物だった。
最盛期は月収1億8000万円を誇った瀧口の人生は、ストリップ業界の荒廃と衰退とともに下降線をたどる。2011年、最後の劇場、諏訪フランス座を閉めて福岡に戻った瀧口は、ギャンブル好きが災いして生活保護を受ける身になった。ストリップ業界の生き証人の晩年に、寂しさが漂う。だが瀧口に後悔はない。やり切った男の淡々としたたたずまいは、爽やかでさえある。(KADOKAWA 1700円+税)