「風神の手」道尾秀介著

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 ひまわりが群れ咲く季節に、15歳の歩美は、母と2人、町の写真館を訪れた。そこは遺影の撮影を専門とする一風変わった写真館。母の命はもう長くない。店に掲げてあるいくつもの遺影のひとつに目を留めた母の表情が変わった。知っている人なのだろうか。

 アユの火振り漁が行われる川がある町を舞台にした4つの物語が、一編の長編ミステリーに収束。数十年の歳月を経て、町で起きた不可解な事件の謎が解き明かされていく。

 かつて、川の護岸整備工事のさなかに、薬剤流出事故が起きた。それを隠蔽しようとした工務店は倒産。事故は事件となり、一家は追われるように町を出る。工務店を経営していたのは歩美の祖父。当時高校生だった歩美の母は、淡い思いを寄せていた若い漁師とつらい別れをしていた。

 若い漁師とその父親、護岸工事の作業員とその息子、写真館の経営者、護岸工事を引き継いだ工務店の女社長……。3世代にわたる登場人物たちの人生が重なり合い、変転する。

 彼らの運命を決めたのは、あるとき河原に吹いた一陣の風なのか。めぐりあわせに翻弄されながらも懸命に生きる人間群像が複雑に絡み合い、大きな物語となって結実した。(朝日新聞出版 1700円+税)

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