「ニセコ化するニッポン」谷頭和希氏
「ニセコ化するニッポン」谷頭和希著
「ニセコは、顧客を外国人富裕層に絞ったことで集客に成功しました。こうした『選択と集中によるテーマパーク化』を『ニセコ化』と名付けて世の中の流れを見たとき、いま商業施設やその他の日本のあらゆる場所で『ニセコ化』が起きていることがわかります」
ニセコといえば、牛丼1杯2000円、ホテル1泊15万円など、外国人向けの高価格設定で有名だ。「選択と集中」の手段として使われるのがこうした価格設定だと著者はいう。
本書はニセコという一地域で起きた象徴的な現象からスタートして、ニセコ化していく都市や企業、逆にニセコ化に乗れず苦戦している企業を紹介しつつ、ニセコ化が加速した背景やその功罪についても考察している。
例えばスターバックスや最近のディズニーランドは、高価格路線で一部の層にとっての居心地の良さを提供しつつ、それ以外を実質排除する方向性に舵を切った。表向きには、万人に門戸を開いているが、ターゲット外の人を除外する「静かな排除」が見られるのだ。
「高度成長期を終えて人口が減少する中で、物があれば売れるという時代は終わり、マーケティングやブランディングがどんどん深化した結果、あるターゲット層に深く刺さるものを追求する企業が増えました。そうして細分化した結果、スタバを利用する人は頻繁に利用するが、利用しない人は全く利用しない、サイゼリヤを使う層は決まっているというように、各層が分断しています」
ハンバーグに特化した「びっくりドンキー」や、粉からの手作りうどんにこだわる「丸亀製麺」などのニセコ化による成功例とともに、ニセコ化の波に乗れず苦戦中の百貨店や従来型のファミレス、当初は「選択と集中」で成功していたものの次第にその鋭さを失ってしまったヴィレッジヴァンガードの例なども紹介。集中の方向性を誤れば凋落しかねないリスクについても触れている。
「さらに今、問題になっているのは、公園や公共施設におけるニセコ化でしょう。特に2000年代からは自治体もお金がなくなってきて、図書館や公園などが官民連携を取り入れ始めた。渋谷の宮下公園から宮下パークへの変化がいい例ですが、ホームレスが排除され、若者たちの憩いの場へと変わりました。1億総中流だった時代は中間層を想定して公共空間をつくればよかったのですが、所得格差が広がり、居住する外国人も増加する中で、中間層を設定するのが難しい。公共の施設でも誰のための空間かを考える必要性が出てきたのかもしれません」
こうした公共のニセコ化の流れに加えて、推し活やSNS上のキャラ化など個人の心の中で起きている選択と集中についても本書は言及。都市論やマーケティング論などの1つのジャンルだけに収まらず、ニセコ化というキーワードで今の日本の時流を横断的に見せているのが特徴だ。
「若年層やシニア向けに特化した場が増えた一方で、中高年の居場所がなくなっている可能性もあります。もしかしたら、ニセコ化の煽りを一番受けているのは中高年かもしれません。日々ふんわり感じていた違和感の正体を、この本でつきとめていただけたら」 (KADOKAWA 1650円)
▽谷頭和希(たにがしら・かずき) 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。早稲田大学文化構想学部卒、早稲田大学教育学術院修士課程修了。東洋経済オンラインや現代ビジネスなどでの執筆のほか、著書に「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」などがある。