運転免許証1枚で即採用の「最後の砦」
「デリヘルドライバー」東良美季著 駒草出版/1500円+税
駅前や繁華街を歩いていると、ホテルの前や路上に止まっている怪しげなワゴンを見かけることがある。ワゴンの中では、丸刈りに黒革のジャケットを着たいかつい男性が、運転席でスマホをいじっている。いわゆる「デリワゴン」=デリヘルで働く女性をホテルまで送迎するための車だ。しばらくすると、ホテルから出てきた女性が小走りで乗車し、ワゴンは何事もなかったかのように発車する。
夜の世界を支える縁の下の力持ちでありながら、これまで語られることの少なかったデリヘルドライバーの素顔に焦点を当てたのが本書である。
ドライバーとして、9人の男性たちが登場する。元ヤクザ、ギャル男、闇金、バイオリニストなど多様な個性や職歴の持ち主だが、いずれもさまざまな職を転々として、最後にたどり着いた仕事がデリヘルのドライバーだった、という点は共通している。
女性にとって、自らの体を使う仕事であるデリヘルは「最後の砦」といわれているが、男性にとっても、運転免許証1枚があれば即日採用になり、過去や経歴を問われないデリヘルドライバーの仕事は「最後の砦」なのかもしれない。
風俗店の男性スタッフやドライバーという仕事が、ある種の「漂着の浜辺」として、表社会からはじかれた人たちを包摂する場として機能していることがうかがえる。
本書の特徴は、そんな彼らを突き放すのでも見下すのでもなく、「私たちと同じ現実の中で、額に汗して働く男たち」として捉え、彼らの語りに寄り添いながら、個々の人間的な魅力を描き出している点にある。そうした著者の温かい姿勢が、ありがちな底辺ルポではなく、読み応えのあるヒューマンドラマとして本書を成立させている。
決して明るい話ばかりではないが、取材対象者の悲惨さだけを強調する貧困ルポに疲れた方には一読をお勧めしたい。真夜中にデリワゴンの助手席に乗りながら、知られざる東京の街並みを駆け抜ける臨場感と疾走感が味わえるはずだ。