「一度は読んでおきたい現代の名短篇」湯川豊著
「読む愉しみ」が満喫できる短編小説を厳選して紹介する文学ガイド。
まず取り上げられるのは、文章に全く無駄がなく、「短編の鑑」と称賛する松本清張の「張込み」。何度か映像化もされて、張り込みをする刑事の緊張感を主体にした推理小説と思われがちだが、この作品はそういうものではないという。殺人犯を追う刑事が、現在は年上の夫と継子と暮らす犯人の元恋人の家を張り込むというストーリーを紹介しながら、作者は主人公の若い刑事がその女を見る視線を通して、人間が背負っている悲しみを描いていると解説する。その他、2人にしか見えない駅のホームの柱に生えるキノコを通して若い女性とヤクザの心の交流を描く三浦しをん著「柱の実り」など、44編を案内。
(小学館 860円+税)