風前のアベノミクス
「官僚たちのアベノミクス」軽部謙介著
いよいよ末期症状を呈し始めた安倍政権。肝心のアベノミクスはどうなる?
政治家が選挙戦で口にするのは「ザルのように粗い目しか通っていない」公約。しかしいったん権力を手にするとそれが官僚機構との相互作用などを経て実際の政策になる。それを「国家意思の出現」と本書はいう。 アベノミクスはまさにそのひとつ。しかもこれは金融政策を最重要課題に掲げた、世界的にも珍しい「異形の政策」だとする。つまり安倍政権の誕生とともに競い合いを演じてきた財務省や経産省は「異形の官僚」の集団になったわけだ。時事通信経済記者の著者はそのプロセスを官僚、政治家、財界人らの動きを細かくフォローしつつ描き出してゆく。
いわゆる経済ドキュメントだが、経済紙によくある無個性な内幕ものと違い、財務・経産官僚たちの腹積もりまで見通すことによって日本では珍しい「ニュージャーナリズム」の域に達した。財界人との会合では、酒席になると一人一人のところを回って話を聞いたり、オフレコで外交の話などをするなど「忖度」も十分な宰相だという。著者はアベノミクスの評価はしないと明言しているが、アベノミクスが国民より大企業優先の政策であることが自然にわかる。 (岩波書店 860円+税)
「アベノミクス2020」宮前耕也著
昨秋の選挙の自民大勝を背景に「安倍政権が2020年ごろまで長期化」と予測して書かれた本書。昨今はその雲行きが怪しいが、本書によれば財政規律が堅守されていれば低金利政策でも円満な出口を迎えることは可能。しかし財務省トップがセクハラとあっては財政規律も危ういかも。仮に安倍政権が盤石だとしても2020年までの財政健全化目標の達成は絶望的というのだ。
また日本は2030年度の温室効果ガスの排出量を対13年比で26%減少とパリ協定で約束しているが、法的拘束力はないためGDPを抑制してまでの努力は不要。ただし自然体での達成も難しく、原発依存の維持か再生可能エネルギーへの依存度を高めるかが争点となるだろうという。
著者は大阪ガスから財務省に出向し、大臣官房の調査員として日本経済の分析も担当。その後、証券会社に移籍してエコノミスト、アナリストとして活躍中。 (エネルギーフォーラム1700円+税)
「アベノミクスが変えた日本経済」野口旭著
「ケインズ主義2・0」を掲げる経済学者の著者によるアベノミクス積極評価が本書だ。
リーマン・ショック後に超低金利策などを回避した白川日銀を著者は「寄り合い政党」の民主党の産物とみて批判。さらに消費税増税を民主党政権の「桁外れに有害」な策という。
これに対して「遅れてきた大不況対策」がアベノミクス。若年層の経済格差や貧困問題も「2019年ごろまでには、ほぼ完全雇用に到達し、2%インフレ目標の達成が視野に入って来る可能性が高い」と楽観的な予想を掲げている。 (筑摩書房 820円+税)