「わかって下さい」藤田宣永著
65歳の声を聞くと、あとどれくらい元気でいられるか、墓はどうしようかとか、残りの人生を気にし始める。そんな年代にさしかかった6人の男を描いた短編集。
表題作は、定年後、家で時間を持て余している男が主人公。「青春のフォークソング」というテレビ番組の公開放送に出かけたところ、隣に若い娘に連れられた60すぎの盲目の女性が座った。
その横顔を見てハッとする。40年前、結婚の約束をした直後に忽然と姿を消した美奈子ではないか。半信半疑でいるところに、ステージから当時2人が好きだった因幡晃の「わかって下さい」が流れてきて確信に変わる。正体を明かさぬまま美奈子の話を聞き、彼女が失踪した意外な理由を知る……。
その他、年頃になって亡き妻とうり二つになってきた連れ子の娘に複雑な感情を抱く男、互いに独り身になったところで長い間押し隠していた思いを幼馴染みに打ち明けようとする男など、人生の年輪を重ねてきたがゆえの、悲しくも切ない白秋・玄冬恋愛小説。(新潮社 1700円+税)