「ものと人間の文化史180 醤油」吉田元著
日本料理に欠かすことのできない発酵調味料・醤油。その定義は「大豆、小麦、塩を主な原材料とし、こうじ菌を培養したものに食塩水を加えたものを発酵させ、熟成させて得られた清澄な液体調味料」となっているが、製法や利用法は時代とともに変化を遂げている。
本書は、発酵醸造学や食文化史に造詣の深い著者が、歴史的かつ地理的視点から、製法が生まれた背景や、現代に至るまでの変遷をまとめている。
たとえば、魚と塩は入手しやすい半面、大豆や小麦の栽培が難しい東南アジアでは魚を原料とした魚醤油が主流だったのに対し、大豆が貴重なタンパク源で小麦栽培も可能だった日本は穀物を原料とした穀醤=醤油が主流となった。
一般に広まったのは江戸時代。そこから醤油なしには語れないそばや寿司、かば焼きなどの食文化が花開く。さらに海外進出を図るための醤油業界の試みや、2度の世界大戦が醤油に及ぼした影響にも言及。醤油がたどってきた紆余曲折が興味深い。(法政大学出版局 2600円+税)