「日本のワインで奇跡を起こす」三澤茂計 三澤彩奈著、堀香織構成/ダイヤモンド社
本書は、山梨の小さなワイナリーが、国際コンクールで金賞を受賞し、いまなお破竹の進撃を続ける成功物語だ。
最初にお断りしておくと、私はワインの薀蓄が語れるほどの味覚を持っていない。ただ、並のワインと一流のワインの区別はつく。その意味で、いまから40年前の山梨のワインは、間違いなく並だった。何しろ、ワインが一升瓶で売られていて、その味は、フランスワインとは、雲泥の差があったのだ。ところが、数年前、テレビ番組で山梨のワインを試飲する機会があり、心底驚いた。世界一流レベルのワインに変身していたからだ。
なぜそんなことが起きたのか。本書を読むと、よく分かる。失敗を繰り返しながら、長い間、努力を積み重ねていくうちに、幸運の女神がほほ笑む。日本人が一番好きなストーリーだ。しかも、本書は、とても読みやすく、鼻につくところがない。それは、著者がもともと理科系出身で、大手商社に勤めていた関係で、話が合理的、客観的だからだ。「いいワインをつくりたい気持ちが奇跡を起こした」などという根拠のないことは、絶対に言わない。何が改善をもたらしたのか、その原因を科学的に語っているのだ。
実は、本書は2部構成になっている。前半は、甲州ワインを世界レベルに引き上げた父親が書いていて、後半は、父の会社に飛び込み、醸造家として事業を支える娘の執筆だ。甲州ワインの世界制覇は、この2人の協力がなければ、あり得なかった。父親は、商社出身で最初から世界を見据えていたのだが、娘のほうは、はなから国境を意識せず、オーストラリアやチリなど、世界を舞台に武者修行に出ていく。まさにグローバルなのだ。 しかも、私は奇跡を起こしたひとつの大きな要因が、娘さんが美人だということではないかと思っている。彼女は、才能もあるし、努力もしている。しかし、才能や努力が成果に結びつかない人は多い。彼女は、美しいことで、世界中の人たちからサポートとチャンスをもらったのではなかろうか。
本書は、事業の成功物語としても、事業承継の成功例としても、理想的な父娘の話としても、読むことができる、内容の詰まった好著だ。
★★半(選者・森永卓郎)