「面従腹背」前川喜平著/毎日新聞出版
落語家の立川談四楼がツイッターで、いま霞が関では<佐川(宣寿前国税庁長官)になるな前川になれ>が合言葉になっているとつぶやいたらしい。もちろん皮肉である。
しかし、前川が存在したことによって私たちは救われたのではないか。佐川のような官僚ばかりだったら絶望するしかないだろう。
「あったものを、なかったことにはできない」と安倍晋三の面前で言い放った前川は、文部科学次官を辞めて2カ月後のツイッターで、<安倍右翼政権を脱出し、僕は本当に1市民になった。空を飛ぶ鳥のように自由に生きる>と自由人宣言をしている。
また、橋下徹に対しての次のようなツイートも極めて当然の嘆きだろう。
<橋下徹がTVで在日コリアンを「大阪にいる北朝鮮の人」と呼んだ。大阪で府知事・市長までやった人間が、在日に対してこの程度の認識しか持っていないとは!>
若者に対しての率直に感心する精神もしなやかである。
たとえば、「SEALDs(シールズ)」の奥田愛基が国会に参考人として出た時、「どうか政治家の先生たちも、個人でいてください。政治家である前に、派閥に属する前に、グループに属する前に、たったひとりの『個』であってください」と呼びかけた。さらに、「みなさんには一人一人考える力があります」とも言ったが、こう言われて居並ぶ国会議員たちはどう思ったのか、と前川は書く。そして「自分の頭で考える」という当たり前のことができない大人は多い、と続けるのである。
“面従腹背”しつつ、前川は2015年9月18日、安保法制の参議院可決の夜、文科省を退庁後に、そぼ降る雨の中をシールズの若者たちに交じって「憲法守れ」「アベは辞めろ」「集団的自衛権は要らない」と抗議の声を上げたという。
「私の中の『主権者』が、どうしてもその夜にだけはやっておかなければ死んでしまうと呻いていた」からである。
今年の4月10日に愛媛県知事の中村時広が認めた「備忘録」や5月21日に同県が参議院に提出した記録文書によれば、安倍や加計学園理事長の加計孝太郎がウソを言っていることは明らかである。そこをもっと詳述してほしかったとして少し減点する。
★★半(選者・佐高信)