「ショートショート美術館」太田忠司、田丸雅智著
小学生の「私」は、自分が属している場所や家族にどうしてもなじめなかった。冬の日、私は家に帰るときは右に曲がる交差点を左に曲がった。そして交差点に出るたびになじみの薄い方向に進んで、見知らぬ町に着いた。見上げると青空が見えるのに、町の中は夜のように暗い。薪が燃える暖炉の前で揺り椅子に座って編み物をしていた老女が私を家に招き入れた。温かいミルクを飲ませて「ここはずっとずっと夜が続く町だよ」と教えてくれた。「暗くても、ここは住みよい町だ。坊や、生きるのが辛かったんだろ?」。(「夜の町」/太田)
ルネ・マグリット「光の帝国Ⅱ」など、10の名画をテーマに2人の作家が競作。
(文藝春秋 1700円+税)