「ピアノ・レッスン」アリス・マンロー著 小竹由美子訳
「短編の女王」と称され、カナダ初のノーベル文学賞を受賞したアリス・マンロー。本書はその最初の短編集。
刊行の1968年当時、マンローは4人の子供を抱え家事に忙殺されながらも短編を執筆し続け、ようやくその評価が高まり短編集の刊行に至ったのだ。しかし、夫との溝も深まった時期でもあり、その5年後、離婚している。本書には、そうしたマンローの最初の結婚生活と、彼女が幼い頃に暮らしたオンタリオ州の田舎町での体験が色濃く投影されている。
冒頭の「ウォーカーブラザーズ・カウボーイ」は、ギンギツネの飼育を生業としていたがうまくいかずに訪問販売員に転身した父親の姿を娘の目から捉えたもの。穏やかで優しい父と口うるさくて細かい母という組み合わせはマンローの両親の姿であり、それぞれの屈託を見据える少女には既に作家の目が芽生えている。
その他、女の子、女性であることを自ら受け入れていく「男の子と女の子」と「乗せてくれてありがとう」、地域の嫌われ者を追い出そうとする動きに静かに抗議する主婦を描いた「輝く家々」など、処女作にして成熟した技巧を示すマンローの凄みが感じられる。
(新潮社 2200円+税)