「僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年」久米明著

公開日: 更新日:

 大正13年に生まれ、94歳の今も現役として活躍する著者が、自らの演劇人生をつづった自伝。戦後の混乱期に息を吹き返した新劇の舞台を見て芝居の面白さに目覚め、東京商大の演劇研究会の初舞台、演劇集団「ぶどうの会」の結成、「夕鶴」との出合い、ラジオドラマやテレビでの試行錯誤、「すばらしい世界旅行」などのドキュメンタリー番組の語り、ハンフリー・ボガートの吹き替え、最近の「鶴瓶の家族に乾杯」のナレーションなど、演劇に懸けた70年間に遭遇したさまざまな経験を振り返っていく。

 特に目を引くのは、演出家である岡倉士朗と福田恆存との強く深い関係性だ。木下順二の脚本の下で、ずぶの初心者だった著者に基礎から演劇を教え、ぶどうの会の要として存在していた岡倉氏と、鋭い批評眼で容赦なく役者を追い込んでいく福田氏によって育てられたという著者。演劇に情熱を注ぐ個性豊かな人々との出会いと別れによって、自らの演劇人としての道を切り開いてきた様子がよくわかる。ひとりの役者の自伝であると同時に、ラジオやテレビの創成期が描かれた戦後メディア史にもなっている。

(河出書房新社 2850円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…