「官僚たちの冬」田中秀明著/小学館新書/2019年
元財務官僚で、民主党政権時代に、内閣府の行政刷新会議担当の参事官をつとめた経験のある田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)による安倍政権下の政官関係に関する秀逸な分析だ。
第2次安倍政権が、6年以上続く長期政権になった秘訣は、首相官邸と内閣府に権力を集中したからだ。
いずれも経済産業省出身の官僚が主体になっている。経産官僚の文化が安倍政権の政策に強い影響を与えている。
<どうして看板政策が次々に登場し、問題分析に乏しい報告書が出されているのか。こうした会議体の運営を担っているのが経産官僚たちであり、彼らのカルチャーに関係する。/経済産業省は、厚生労働省や文部科学省などとは異なり、核となる法律や政策が少ない。例えば、年金に関係する法律は、ときどき制度改正により修正されるが、経産省の法律や制度は、新しいものが古いものにとって代わる「上書き」が多い。その代表例が、毎年看板政策として登場する「一丁目一番地」と言われる政策である。こうしたカルチャーが、短期志向でマスコミ受けをねらって支持率を高めたい官邸と合致したのだ>と田中氏は指摘する。その通りと思う。
興味深いのは、首相官邸による官僚の人事を掌握するという制度設計が民主党政権のときになされたことだ。しかし、民主党政権は、政治家が官僚をテレビカメラの前でつるし上げる「事業仕分け」のような、霞が関(官界)全体を敵にするような手法を取ってしまった。そのため官僚がサボタージュを始めたため、霞が関改革は頓挫してしまった。
第2次安倍政権は、経産官僚に軸足を置き、内閣府を首相官邸の親衛隊とすることによって、霞が関を実質的に支配することに成功した。官僚の第一義的関心は人事だ。「アメとムチ」で官僚を巧みに操る技法は、単純に見えるが、効果的なのである。
★★★(選者・佐藤優)
(2019年2月15日脱稿)