「ハッキリ言わせていただきます!」前川喜平・谷口真由美著/集英社
「いい学校」から「いい会社」へのレールに乗って、いわゆる一流銀行に入ったのに、1年でやめた人のことが忘れられない。彼は母親に1週間も泣かれたという。その後、司法試験を受けて弁護士になるのだが、封建的な日本の企業に勤めていたからだろうか、改めて開いた日本国憲法の一条一条がとても新鮮に映ったと語っていた。
この本は、その憲法をわかりやすく、そして身近な例で説く谷口と、この国の最後の希望の星のような元文部科学事務次官、前川のハッキリ対談である。
TBSワシントン支局長だった山口敬之がジャーナリスト志望の女性をレイプした事件について、「あれはひどい」と怒る前川は「総理の友達で、総理をヨイショする本を書いている人間だからって、犯罪も見逃されちゃう」のはおかしいと指弾し、さらに「それを、官邸官僚だった警察官僚が命じたわけですね。中村格という警視庁の刑事部長をやって、もともと菅義偉内閣官房長官の秘書官だった男ですね。それが、レイプ犯を逮捕するなと命令を出した。それだけじゃなくて、検察も起訴しませんでしたからね」と憤る。
退官して言いたいことを言えるようになった前川は、アメリカについてもズバリと言う。
「私はアメリカという国をもともとあまり信用していません。トンキン湾事件でベトナム戦争を始めたり、大量破壊兵器があると言ってイラク戦争を始めたり。嘘から戦争を始めた国でしょう。日本は74年間戦争をしてないけど、アメリカってあちこちで戦争をして、あちこちの国の主権を侵害し、武力介入なんかやりたい放題やっている。そういう国と同盟関係にあるわけで、それはきわめて危険な国と同盟を結んでいるんだという自覚を持たなきゃいけないと思うんですね」
この国の首相はアメリカの大統領のトランプと親しいことを自慢するが、それは逆に恥ずべきことではないのか。
前川は、広島の弁護士の楾大樹が書いた「檻の中のライオン」(かもがわ出版)をすすめる。放っておくと暴れるライオンの国家権力を憲法という檻が制御するのである。とりわけトランプにはライオンの比喩はぴったりだろう。それに卑屈なライオンの安倍晋三がくっついている。自民党の改憲草案にある緊急事態条項は、ライオンに檻を内側から開けられる鍵を渡すようなものだという説明は、まさにその通りだろう。
★★半(選者・佐高信)