「ビッグ・クエスチョン<人類の難問>に答えよう」スティーヴン・ホーキング著/青木薫訳 NHK出版/2019年
去年3月に亡くなったイギリスの宇宙物理学者スティーヴン・ホーキングのエッセー集だ。
ホーキング氏は本書を執筆した意図について、<基本粒子の集まりにすぎない私たち人間が、自分たち自身を支配する、そしてまた私たちのこの宇宙を支配する法則を理解できるようになったという事実は、偉大な功績だということだ。私は、本書に取り上げたビッグ・クエスチョンを考えると胸が躍るし、それらを探究することに情熱を傾けている。その興奮と情熱を、みなさんに伝えたいのだ>と述べる。
そして、神の存在、宇宙の起源、タイムトラベルの可能性などについて、科学的見地から論じる。知的興奮を覚える。
ホーキング氏は人類の未来に対して前向きだ。だから、<私は限界というものを信じない。個人が私生活のなかでできることについてであれ、この宇宙のなかで生命と知能にできることについてであれ、限界があるとは思わない。科学のあらゆる分野で、私たちは重要な発見の戸口に立っている。これから五十年のうちに、この世界が大きく変化するであろうことに疑問の余地はない。ビッグバンのときに何が起こったのかもわかるだろう。地球の生命はいかにして生じたのかもわかるかもしれない。さらには、宇宙のどこかに生命が発見される可能性もある。知的な地球外生命とコミュニケーションをする可能性は低いかもしれないけれど、それでも地球外生命を発見することは重要だ。なぜならその発見は、やるだけのことはやらなくてはいけないということ、そしてあきらめてはいけないということを意味しているからだ>。
評者は神を信じるキリスト教徒なので、人間には限界があると考える。しかし、自分と真逆のホーキング思想と格闘することは実に面白い。
本書に関して、特に強調しておきたいのが、青木薫氏の翻訳が正確でわかりやすいこと。青木氏は、自然科学の専門分野の専門事項について、正確さを毀損せずに一般の読者にわかりやすく伝えるサイエンス・コミュニケーターの技法を体得している日本では数少ない知識人だ。このこともとても勉強になる。 ★★★(選者・佐藤優)