「ブックショップ」ペネロピ・フィッツジェラルド著、山本やよい訳
物語の舞台は、1959年のイギリス。主人公のフローレンス・グリーンは、戦争で亡くなった夫との夢だった書店をオープンするため、海辺の小さな町ハードバラの空き家を手に入れた。
オールドハウスと呼ばれるその家は、7年もの間放っておかれた物件で、屋根瓦が崩れおち、おまけに地下にはかつて洪水になった際の海水がまだ残っているようなしろもの。その上幽霊まで出るような場所だったが、フローレンスは精力的に開店の準備へとこぎつける。
当初、銀行員や住人たちの女1人の挑戦を揶揄するような町の人々の声があったにもかかわらず、何ひとつない町にできた書店は、いつしか住民が詰めかける人気の場所になっていく。しかし、町の有力者は事あるごとにフローレンスに嫌がらせをするのだった……。
本作を含む3作の小説が英国の権威あるブッカー賞にノミネートされ、79年に「テムズ河の人々」で受賞を果たした著者の長編小説。保守的な田舎町に本をもたらそうと奮闘する女性の静かなる挑戦を描く。「マイ・ブックショップ」の名で映画化もされ、3月から各地で上映されている。
(ハーパーコリンズ・ジャパン 1700円+税)