妻の本音に驚愕する5冊 夫がテーマの文庫本特集
「名も知らぬ夫」新章文子著
結婚して何年経っても相手の意外な面を見て驚くことがある。優しい言葉にホロリときたり、冷たい態度にがっかりしたり……。今回は妻から見た夫を描いた文庫5冊を紹介。墓問題、隠し子、愛人など夫婦の問題が発覚したときの妻の本音を、女性作家たちがズバリ描いている。
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30歳を過ぎて母と2人で暮らす市子の元に、25年も音信不通だったいとこの郷堂圭吉が訪ねてきた。市子は圭吉の顔を覚えていなかったが、魅力的な圭吉に心引かれる。
母親は圭吉を訝しがったものの、市子の説得で3人は一緒に暮らすことに。ほどなくして母親から、市子と圭吉の結婚話が出るが、婚前交渉が母親にバレ、話は白紙になる。すると圭吉の態度が豹変。「結婚するためにはお母さんに死んでもらうしかない」と囁き、惚れた弱みで市子は手を貸してしまう。
果たして、夫となった圭吉は本当は誰なのか。疑惑に蓋をしてきた市子は、男の正体に迫ることに――。(表題作)
その他「併殺」や「ある老婆の死」など、昭和初期を舞台に、嫉妬や物欲、怨恨などに理性を失っていく人間の弱さを描いた推理短編8編を収録。
(光文社 880円+税)
「夫の骨」矢樹純著
昨年、夫の孝之が登山で事故死した。義母の佳子が亡くなったあと、彼女の生前の望みをかなえるかのように始めた山登りだった。
ある日、夫の遺品を整理しようと開けた物置で、私は小さな桐箱を見つけた。中に入っていたのは乳児の骨だった。私はめまいを覚えながら記憶をたどる。夫とは18歳差で血のつながりはなかった佳子が、舅の死後、生き生きと夫の世話を焼き始めたこと。入浴介助のときに見た佳子の腹にあった妊娠線。舅の2年間の単身赴任……。猜疑心にとらわれた私は生前、佳子が入所していたグループホームの介護士を訪ねた。すると、介護士は佳子の妄想として“赤ん坊殺し”の話を教えてくれたのだった。(表題作)
夫婦、姉妹、祖母と孫など、家族の軋みを描いた9編収録の短編集。意外な展開にページをめくる手が止まらない。
(祥伝社 670円+税)
「夫が邪魔」新津きよみ著
結婚生活の中で生じる夫婦のすれ違いや愛人問題などリアルな日常を編んだ7つの短編集。いずれも、複雑な女性心理が物語を意外な方向へといざなっていく。
小説家の朝倉夕子の元に、片山京子という女性からファンレターが届いた。京子は朝倉の作品はもちろん、雑誌で見た自宅にも憧れているといい、忙しい先生のために家事を引き受けたい、ぜひ、住み込みの家政婦として雇ってもらえないかとつづってきたのだ。
作家になって以来、家事や雑事を押し付け、消耗させようとする夫に、疎ましさを募らせていた夕子は、京子を警戒しながらも文通を始める。
夕子は「夫は邪魔な存在でしかない」「あなたを雇いたい」と手紙に書く一方で、やがて京子にさまざまな指示を出すようになる。そして、作家とファンの関係は、いつしか変わっていき――。(表題作)
(徳間書店 670円+税)
「夫の墓には入りません」垣谷美雨著
結婚記念日の夜遅く、夏葉子に、夫の部下から電話がかかってきた。夫が脳溢血で急死したというのだ。東京に出張に行っていたはずなのに、なぜか夫が発見されたのは地元、長崎のビジネスホテルだった。
夫婦仲は冷めていたので特に寂しさはないが、夫の葬儀が終わると身辺が慌ただしくなった。愛人とおぼしき女サオリへの結婚前から続く送金。同情的だった義理の家族や親戚は、何かと夏葉子を探り、過干渉になっていった。仕事内容に始まり、仏壇、夫の墓には早々に夏葉子の名前も彫られた。義理の両親の老後の面倒まで「嫁」としての役割を期待する舅たちに息苦しさを覚えた夏葉子は、ある日、実母から義理の両親たちと縁を切る方法「姻族関係終了届」を教えられ……。
「卒婚」し、新しい人生へと進んでいく女性の姿を描く長編小説。
(中央公論新社 680円+税)
「夫婦脳」黒川伊保子著
男女の脳が異なるのは知られた事実だが、実は夫婦の脳はもっと違っており、一般の男女をはるかに超え、すれ違っているという。
感じる領域の右脳と言語機能をつかさどる左脳の連携がよく、感じたことが即言葉になる女性は、脳にあふれる言葉を口にしないとストレスがたまってしまう。1日のうちに口にしなければならない単語は、2万語ともいわれる。そんな女性脳と暮らす男性は「垂れ流される言葉」にストレスを感じる脳の持ち主だ。
脳の仕組みからいえば、男性には「事象をイメージのまま整理する」=「ぼんやり」する時間が必要で、それを許されない男性は、早死にしてもおかしくない。
結婚14年目と21年目に離婚が多い、男性の「家事を半分やっている」は、実は6分の1にすぎないなど、脳科学とことばの研究者が、夫婦の脳を読み解く面白エッセー。
(新潮社 490円+税)